傍に居るなら、どうか返事を


※心持ちR18です。

 行き着かない原因に思考を割くよりも、成歩堂にはまずやらなければならない事があった。スエットをずらして、下着の端から自身を取り出す。感心するほどに、ご立派に立ち上がっている。
「もう、出てるし…。」
 先端から滲んでいる液体を掌全体で包むと、ぐじゅりと濡れた音と確かな快感が背筋を駆け上がってくる。やはり、この訳のわからない下半身も自分のものなのだと確信して、成歩堂は普段するように先端を中心に上下に腕を動かし始める。
 くっと仰け反った顎、薄く開いた唇からは小刻みな呼吸が生まれる。瞼を落として没頭していれば、部屋を包む香りを鼻腔に吸い込む。この香りを鼻にする時、この頃決まって蘇る香りがある。
 濃厚なこの香りとは全く違う、しかし金の髪と薄い瞳が確実に想像を助長する相手。唇しか知らない。抱き締めた事はあるけれど、その肌に触れた事はない。
 (似て非なる)男を見つめながら、その姿を何度想像しただろうか。

 啼くだろうか、眉間をギュッと寄せて耐えるだろうか。他の誰も見たことのない顔をさせてみたい、泣かせてみたい。そんな欲望。
 
 グラビアを眺めて抜く中高生でもあるましと苦笑したくなって、それでも快楽を追う手と身体は動き続けて、一瞬入口で詰まった感のある液体がボタボタと指の間から零れ落ちた。
 スエットに吸い込まれて濃い色の滲みが生まれる。
「ティッシュ…ティッシュ…。」
 手で押さえ込んだままの、間抜けな格好で身体を起こす。幸いにも、手の届く範囲にあったそれを数枚ひっつかんでものを拭いてから、手に付いたものも拭く。ゴミ箱に放り込んでから、溜息をつく。
「オイオイ」
 持久力にも自信がない訳ではなかったが、一端出したにも係わらず、変わらぬ状態で天を仰いでいる。おまけに先程の吐精が切欠になったのか、身体さっき以上に熱を帯び指先で触れれば腰に甘い痺れが走る。
 即されるように再び腕を動かせば、原因に頭を巡らせる余裕など爪の先程も浮かばない。本能は刺激を求めて、思考などという無駄なものを削りとっていく。
 
「…ああ、やりたぃ…。」

 性交の心地よさを知っているだけに、自慰などでは治まらない。熱は引かない。開放感が欲しい。
 欲しい。君が、欲しい。
「き…」
 思わず言いそうになった名前が最初の一文字で止まる。

「…あんた、何やってんの?」

 扉を開ける音も、邪魔をすると掛けられた声も何も聞こえはしなかった。目を丸くして、自分を見つめる響也の姿に一瞬だけ理性が引き戻される。
「ねぇ、ちょ…成歩堂さん。」
 頬を赤くして、向ける視線が自分のものだという事はわかる。余りの事に、反応出来ない様子で小さく喉を鳴らした。薄く開いた唇から見える赤い舌は吸い付きたくなりように鮮やかで。砂でつくられた理性は本能という波にあっけなく飲まれてしまう。
「…っ…。」
 床を踏みしめる音が近付いてくる。
「もう、兄貴の事務所でそういう事するの止めてくれるかな? あんた見境がないの?」
 軽口を聞き、眉間に皺を寄せながらそれでも自分に近付いてくる響也の姿に、腹の中で暴れるモノを必死で押さえ込もうと唇を噛んだ。それでも、手が動いているのは異常な証拠だ。
 異常だ。異常に決まっているだろう。最後の理性が警告を鳴らした。

「…駄目…だ。響也く…近付くんじゃない…」

 しかし、声を掛けた事が仇になった。掠れて切羽詰まった声に、響也は益々不審そうな表情になり顔を近付けてくる。
「どうかした…の?」
 目の前で自慰をしている相手に、(どうかしたの)はないだろうと心中でせせら笑って、成歩堂は少年の素直さを恨んだ。不審な自分の様子を怪訝に思うと同時に、心配しているのだ。吐息がかかるほど近くに来ているのを感じて、かぁと頭が熱くなる。無意識に動いた片方の手が、響也の側頭部に触れる。
 手触りの良い綺麗な金。澄んだ碧い瞳。指先に触れるピアスが、性交を重ねた相手とは別人だと必死で訴えている。しかし…。
「成歩堂…さん?」
 呼ばれた名が引き金になった。髪を掴んで強引に唇を重ねる。
 擽る香りが響也であることを教えているのに、部屋を包む霧人の香りは制限を外した。溺れてもいいと、成歩堂に優しく囁く。

 やられた。

 響也が此処に来る事も、部屋があの男の香りであることも、そして自分の様子も全て。沈みきる前に浮かんだ思考は、直ぐに跡形もなく白く変わった。


※続きは響也視点のR-18になりますので、隠してあります。
読まなくても話は続きます。


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